【読書メモ】『資本主義だけ残った』ブランコ・ミラノヴィッチ 著

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こんにちは、lizard.kです。

ロシアのウクライナ侵攻や、虎視眈々と台湾を狙う中国など、新たな冷戦とも言える対立が露わになってきました。

現地の凄惨な映像を見ると自らの無力を痛感しますが、せめて今何が起きているかを理解して、これからどうなっていくかを考えたいと思って読んでいた本が『資本主義だけ残った―世界を制するシステムの未来』ブランコ・ミラノヴィッチ 著、みすず書房刊(2021/6/18)です。

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『リベラル能力資本主義』対『政治的資本主義』

『資本主義だけ残った(原題:Capitalism, Alone)』の著者であるブランコ・ミラノヴィッチ:Branko Milanovicは、世界銀行調査部の主任エコノミストを20年間務めたこともある経済学者です。

この本では資本主義を二つの形態、すなわちアメリカに代表される『リベラル能力資本主義:Liberal Meritocratic Capitalism』と中国に代表される『政治的資本主義:Political Capitalism』に分け、それぞれの特徴を述べています。

冷戦の終結によって資本主義社会主義というイデオロギー的な対立が姿を姿を消したあと、新たに浮上したのがリベラル能力資本主義政治的資本主義という資本主義同士の衝突です。

この二つの体制にはそれぞれメリットとデメリットがあり、リベラル能力資本主義は格差が拡大する宿命にある。なぜなら高度にグローバル化した経済の中で、超富裕層が高い資本所得だけでなく高い労働所得も得ることになるからである。
ただし、政治的には民主主義と結びつき、自浄作用が発揮される余地があります。

一方の政治的資本主義は大きく三つの特徴を持ちます。第一は極めて効率的な官僚システムと、第二は法の支配の欠如(官僚システムがその能力を思う存分発揮するため)、第三は国益によって誘導され民間部門を統制する国家の存在です。

これらの特徴が政治的資本主義を採用する国々が高い成長率を成し遂げられる理由ですが、その一方で権力が高スキルを持つテクノクラートに集中し、かつ法の支配が不十分なため深刻な腐敗を生み出します。

つまりリベラル能力資本主義には「格差」を拡大させる仕組みがビルトインされている一方で、政治的資本主義には「腐敗」を深刻化させる仕組みがビルトインされているんですね。

したがって、政治的資本主義は腐敗を一定のレベルまでに抑えつつ、人々の不満を逸らすために高い成長率を成し遂げなければならないというプレッシャーに常にさらされています。

ちなみに著者は共産主義について「後進の非植民地国が封建制を廃止し、経済的政治的独立を回復し、固有の資本主義を可能にする社会システム」として捉えています。
他国に支配されて貧困にあえいでいた国々が、資本主義的な経済発展を実現するためには社会主義革命が必要だったというわけです。

資本主義の未来はどうなるのか

では資本主義に代わる体制はあるのでしょうか?
それは無いというのが著者の見解です。では資本主義の未来はどうなっていくのか?

これ以上の格差の拡大を防ぐにはリベラル能力資本主義が、下図のように民衆資本主義、そして平等主義民主主義へと移行できるかにかかっているとしています。

資本主義の発展段階
  • 『古典的な資本主義:Classical Capitalism (UK before 1914)』労働者は労働のみから収入を得て、資本家は資本のみから収入を得ており、すべての資本家はすべての労働者よりも裕福である
  • 『社会民主主義的な資本主義:Social Democratic Capitalism (US, Europe after WWII)』労働者は労働のみから収入を得て、資本家は資本のみから収入を得るが、すべての資本家はすべての労働者よりも裕福とは限らない
  • 今ここ→
    『リベラル能力資本主義:Liberal Meritocratic Capitalism (US in early 21st century)』ほとんどの人は労働と資本の双方から収入を得ている。資本所得の割合は所得水準とともに上昇し、超富裕層の場合はほとんどが資本所得だが同時に高い労働所得も得ている
  • 『民衆資本主義:People's Capitalism』誰もが資本所得と労働所得をほぼ等しい「割合」で得る
  • 『平等主義的資本主義:Egalitarian Capitalism』誰もが資本所得と労働所得をほぼ等しい「量」で得る

そのための政策として以下の四点があげられています。

  1. 中間層を対象に金融所得と住宅資産の形成に税制上の優遇措置を設け、富裕層に対しては増税し、相続税率を上げる。
  2. 公教育の予算を増やし、その質を改善する。
  3. 移民問題に対処するため、『軽い市民権』を導入する。
  4. 富裕層が政治プロセスを牛耳るのを防ぐため、政治運動への資金提供を厳しく制限し、出所は公的資金のみとする。

その一方で、リベラル能力資本主義が全く異なる進展を遂げ、金権政治、そして最終的には政治的資本主義に収束する未来も考えられなくはありません。

米中の対立が激しさを増す中、どの道を選ぶかは我々の選択にかかっていると言えるでしょう。

特に中国型の強権主義的な資本主義についての説明が、明快で分かりやすかったです。

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