社会人が読んでも面白い、米国の経済学教科書

2015/10/21

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経済を扱った「読み物」は巷に溢れていますが、こういう本ばかり読んでも今ひとつ理解できた気がしません。ここは一度体系的に経済学を勉強してみるかと思い立ったのが数年前。初学者にも分かりやすい参考書を探して辿り着いたのがアメリカの大学生向けのテキストでした。
アメリカの教科書の特徴は、冗長とも言えるほど丁寧に書かれていて分厚いこと。簡潔に書かれた薄手の日本の教科書とは対照的です。日本の場合、テキストの行間は授業で補うことを意図して書かれているようで、独学だと辛い面があるんですよね。その点、アメリカの教科書はスラスラ読み進められるので、分厚くても結果的に短時間で済んだりします。ざっとイメージを掴んだ後で日本の教科書を読むと、良くまとまっているなぁと感心することもしばしば。うまく両者を使い分けられるといいですね。

そんなわけで私のような社会人や独学で経済学を学ぼうという人の参考になればと思い、取っ掛かりになりそうなアメリカの経済学テキストをまとめたブックガイドを作ってみました。初級から中級レベルで、比較的最近翻訳されたものを選んでいます。

 

経済学入門

最近出た本でいいなと思っているのが、日本経済新聞出版社から刊行された『ハバード経済学』です。
R. Glenn Hubbard and Anthony P O'Brien, Economics, 4th Edition, 2012の翻訳で、原著最新版は5th Edition, 2014。元は一冊の本ですが、翻訳版は『スティグリッツ経済学』のように三分冊での出版です。印刷もカラーで見やすくていいですね。
著者のグレン・ハバードは、コロンビア大学ビジネス・スクール校長で、ジョージ・W・ブッシュ政権下では大統領経済諮問委員会議長を務めた方。翻訳も竹中平蔵教授ですので期待できそうです。
目次を見る限りでは、市場競争(基礎ミクロ編)のところや、金融/財政政策(基礎マクロ編)のあたりが面白そうです。

定番の『マンキュー経済学』は最近第3版が出ています。N. Gregory Mankiw, Principles of Economics, 6th Edition, 2011 の翻訳(原著最新版は7th Edition, 2014)で、ミクロ編とマクロ編の2分冊構成。『マンキュー入門経済学』はミクロ/マクロ編から基礎的な章を抜き出して1冊にしたもので、内容が重複していますのでご注意ください。
巻頭の「経済学の十大原理」は有名で、いかに経済学に興味を持ってもらうかという工夫にあふれた構成になっています。

『クルーグマン ミクロ経済学 / マクロ経済学』は Paul R. Krugman and Robin Wells, Economics, 2006 の翻訳(原著最新版は3rd Edition, 2012)です。当時はまだクルーグマンのシリーズが出版されていなかったこともあり、私は『マンキュー経済学』を読みました。レベルが似通っているので、本の大きさ(B5判)と重量さえ気にならなけば、後発の分クルーグマンのシリーズを選ぶのもいいかもしれません。ちなみに、クルーグマンは2008年にノーベル経済学賞を受賞しています。

『スティグリッツ入門経済学 / ミクロ経済学 / マクロ経済学』Joseph E. Stiglitz and Carl E. Walsh, Economics, 4th Edition, 2006の翻訳。第4版になってソフトカバーのモノクロ印刷に変わり、値段が少し安くなりました。
スティグリッツはマンキューやクルーグマンのシリーズより、ややレベルが上だと思います。3分冊でボリュームもありますが、評判の高いテキストなのでチャレンジする価値はあるでしょう(私も機会があったら読んでみたいと思っています)。スティグリッツは情報の非対称性に関する研究で2001年にノーベル経済学賞を受賞しています。

 

中級ミクロ

最近のマクロ経済学はミクロ的基礎の上に構築されているので、遠回りなようでも中級くらいまでのミクロ経済学を先に勉強しておくとスムーズです。この辺から少し数式が出てきますが、高校レベルの数学を知っていればあまり問題ないでしょう。

【2015/01/03追記】中級ミクロの翻訳書としては、ほぼヴァリアン一択だったのですが、少し前に『ピンダイク&ルビンフェルド ミクロ経済学』が出ました。Robert S. Pindyck and Daniel L. Rubinfeld, Microeconomics, 7th Edition, 2008 の翻訳で、原著最新版は 8th Edition, 2012 です。分量は多いですがその分丁寧に書かれているので、ヴァリアンの翻訳方針が合わない方には特におすすめです。カラー印刷で見やすいのもポイント高いです。

現在ではGoogleのチーフ・エコノミストを務めているヴァリアンの『入門ミクロ経済学』は、Hal R. Varian, Intermediate Microeconomics: A Modern Approach, 9th Edition, 2014 の翻訳です。アメリカのテキストの翻訳は、日本では分冊で出版されることが多いのですが、この本は原著にある章末問題とその解答や例題、数学補論などを思い切って削ることで一冊にまとめています。個人的には分冊になってもいいので全て載せて欲しかったところですが、財布に優しいのは確かなので考え方の違いでしょう。
原著では最近9th Edition, 2014が出版され、計量経済学の章が増え全38章になっているようです。両方購入して日本語版で省略された部分を補うのも一つの手だと思います。ゲーム理論、行動経済学、非対称情報といった最近の話題までカバーしていますし、一つ一つの章が短いので読みやすいと思います。
【2015/08/30追記】翻訳も原著第9版を元にしたものが出版されました。

少し変わったところでは『MBAのためのミクロ経済学入門』というのもあります。David M. Kreps, Microeconomics for Managers, 2004の翻訳で、他の教科書とは少し毛色が違い、経営学と関連付けながらミクロ経済学を学びます。面白いのは、数学に不慣れな読者のためにExcelを活用している所です(私は逆に煩わしく感じて途中で挫折しましたが ^^;)。このExcelのデータや、練習問題のヒントおよび解答は出版社のWebサイト(第1巻第2巻)からダウンロード出来ます。

 

中級マクロ

『ジョーンズ マクロ経済学』はとても面白いです。Charles I. Jones, Macroeconomics, 2nd Edition, 2011の翻訳と内容も新しく、第2巻にはリーマン・ショック後の世界的金融危機について書かれた章もあります。原著では最近3rd Edition, 2014が出ました。
第1巻は著者の専門分野である経済成長理論から始まり、長期から短期へという流れは『マンキュー マクロ経済学』と同じですが、個人的にはマンキューよりもすっきりしていて読みやすく感じます。第2巻の短期モデルはLM曲線を使わないなど現代的な記述になっています。

定番の『マンキュー マクロ経済学』も第3版が出ました。原著は N. Gregory Mankiw, Macroeconomics, 7th Edition, 2010 で、改訂の目玉は新たに第2巻(応用篇)に加わった動学モデルを扱った章です。
なお、原著では 9th Edition, 2015が出ています。8/eで追加されたfinancial systemに関する章は、著者のブログからPDFで読むことが出来ます。

マクロは上記の2冊が内容も新しくておすすめですが、他に有名どころとしては元FRB議長が著者に名を連ねる『エーベル/バーナンキ マクロ経済学』(Andrew B. Abel and Ben Bernanke, Macroeconomics, 5th Edition, 2005 の翻訳、原著最新版は8th Edition, 2013)や、翻訳が古いですが『ブランシャール マクロ経済学』(Olivier Blanchard, Macroeconomics, 1997 の翻訳、原著最新版は6th Edition, 2012)などがあってより取り見取りです。

上記の4冊がケインジアン的なアプローチなのに対して、最近発売された『ウィリアムソン マクロ経済学』は古典派的な市場均衡アプローチのテキストです。ジョーンズやマンキューよりも難易度は高いですが、次々と難しい数式が出てくるわけでもないので中級と上級の橋渡しには良さそう。Stephen D. Williamson, Macroeconomics, 3rd Edition, 2008 の翻訳で、原著最新版は5th Edition, 2013です。
似たようなアプローチのテキストとしては、Robert J. Barro, Macroeconomics: A Modern Approach, 2008を翻訳した『バロー マクロ経済学』があります。

 

経済成長論

ワイルの『経済成長』も読みたいと思ってる一冊。経済成長理論のテキストは数学的にも難しいものが多いですが、これは読みやすそう。David N. Weil, Economic Growth, 2nd Edition, 2009 の翻訳(原著最新版は 3rd Edition, 2012)。
ところが残念なことにピアソン桐原がピアソングループから離脱してしまったため、現在は絶版になっています。良い本なので、『クルーグマンの国際経済学』のように丸善出版から再販売されるのを期待したいところです。

もう少し数学が出てきてもよければ、ジョーンズの『経済成長理論入門―新古典派から内生的成長理論へ』もあります。Charles I. Jones, Introduction to Economic Growth, 1997 の翻訳。原著最新版は3rd Edition, 2013です。

 

国際経済学

国際経済学というと貿易理論のようなミクロ的な内容だけを指す場合もありますが、『クルーグマンの国際経済学-理論と政策-』は上巻で貿易理論、下巻で国際金融論というようにミクロ・マクロ双方の分野を扱っているテキストです。為替レートの決定理論や、国際収支不均衡の問題、貿易の自由化問題など、社会人にとって興味深いトピックが数多く含まれています。
原著は Paul R. Krugman and Maurice Obstfeld, International Economics: Theory and Policy, 8th Edition, 2008 で、以前のものは新世社(3/eの翻訳)やエコノミスト社(5/eの翻訳)から出版されていましたが、ピアソン桐原から8/eの翻訳が出ました(しかもカラーで)。その後、ピアソン桐原がピアソングループから離脱したため、丸善出版から再販売されています。
原著最新版は10th Edition, 2014で、9/eからは「メリッツ・モデル」のMarc Melitzが共著者に加わっています。
関連記事: メリッツ(Melitz)モデルが載っている貿易理論のテキスト

この他には翻訳が少し古いですが、ケイブス・フランケル・ジョーンズによる『国際経済学入門』も有名です。Richard E. Caves, Jeffrey A. Frankel and Ronald W. Jones, World Trade and Payments: An Introduction, 9th Edition, 2002 の翻訳(原著最新版は 10th Edition, 2007)。

 

公共経済学

国や地方自治体の経済活動を扱う公共経済学。アメリカの社会保険や税制などを題材に勉強するよりは日本のテキストの方が分かりやすいかと思ってこれまで敬遠していましたが、実際に『スティグリッツ 公共経済学』を読んでみると平易な説明でとても面白かったです。さすがスティグリッツ!
Joseph E. Stiglitz, Economics of the Public Sector, 3rd Edition, 2000の翻訳ですが、原著の方は久しぶりに新版(4th Edition, 2015)が出るようです。

 

ビジネスエコノミクス

ミルグロムとロバーツの『組織の経済学』は、Paul Milgrom and John Roberts, Economics, Organization and Management, 1991の翻訳。ミクロ経済学の応用として組織や契約の理論を解説しており、MBAなど経営学のコースでもしばしば必読書として挙げられるテキストです。

同様の視点から経営戦略を中心に書かれた本としては、ベサンコ、ドラノブ、シャンリーによる『戦略の経済学』があります。David Besanko, David Dranove and Mark Shanley, Economics of Strategy, 2nd Edition, 2000の翻訳(原著最新版は6th Edition, 2013)。

どちらも数学的な難しさはありませんが、大きくて分厚い本なので読み通すには覚悟が必要でしょう (^^;

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