根井雅弘 著 『20世紀をつくった経済学―シュンペーター、ハイエク、ケインズ (ちくまプリマー新書)』を読了

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今年は経済学の古典を勉強してみようと思い、手始めに『20世紀をつくった経済学 -シュンペーター、ハイエク、ケインズ』(根井雅弘 著)を読んでみました。

最近の経済学には古い経済学のエッセンスが受け継がれているわけだから、わざわざ古い方を勉強するまでもないと考えていたので、本書のサブタイトルになっているシュンペーター、ハイエク、ケインズといった経済学の巨星たちについても何となく知っている程度だったんですね。

ところが、昨年の11月から始まった日経の「(やさしい経済学)危機・先人に学ぶ」というコーナーがなかなか面白く、世の中にあふれる「古くて新しい問題」を考える上で、先人の残した思想は示唆に富むと改めて感じたのであります。

本書はちくまプリマー新書の一冊で高校生あたりを主なターゲットにしているようですが、理系で畑違いの私にはちょうどよいレベルでした(むしろ高校生の頃にこれくらい読める頭脳が欲しかった ^^;)。とはいえ、127ページと分量は少ないのであっと言う間に読めてしまいます。

構成としては第1章がシュンペーター、第2章がハイエク、第3章がケインズについてで、最後にエピローグでまとめられています。

シュンペーターと言えばイノベーションの概念で有名ですが、イノベーションに成功した人を見て大量に模倣する者が現れることが「好況」を導き、やがて新商品が大量に出まわり価格が低下していくのが「不況」であると捉えていたことをこの本を読んで知りました。したがって「不況」はイノベーションに対しての正常な適応反応であって、それを人為的に妨害してはならないということのようです。バブルとその崩壊後の不況をどのように見ていたのか興味がわきます。

またケインズについては、有名な『雇用・利子および貨幣の一般理論』以外の著作からも引用されていて、多面的な理解に役立ちました。

ケインズは、ハイエクが固執した古典的な自由主義を奉じるのではなく、政府による慎重な「総需要管理」を導入して大恐慌のような病弊を取り除くことによってのみ、自由主義の「精髄」を保持することができると考えたという意味で、「修正された自由主義」の支持者でした。

という一節を読むと、拡張的な財政政策を唱える政治家や学者たちが、ケインズの言う「慎重さ」を持ちあわせているのか疑問に感じます。こういった人たちが便利にケインズを引っ張り出してきてバラマキの口実に使っている現実を見るにつけ、我々はもっとしっかりとケインズの考えを学ぶ必要性を感じます。
原著にチャレンジする前に、まずは本書で紹介されている伊東光晴 著『ケインズ―“新しい経済学”の誕生(岩波新書)』や、吉川 洋 著『ケインズ―時代と経済学(ちくま新書)』でも読んでみようかと思っています。

さて著者は、不況時には適切な「総需要管理」を行い、不況を脱したら市場メカニズムに委ねるというようにケインズと新古典派の理論を統合した、サムエルソンの「新古典派総合」の考え方を評価しています。そして原理主義に陥ることを戒め、シュンペーター、ハイエク、ケインズの考え方の違いや、折り合える点を紹介しているのも好感が持てました。

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