サンデル教授 in ハヤカワ国際フォーラムをニコ生で視聴

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ハヤカワ国際フォーラムでのマイケル・サンデル教授の講義を、ニコニコ生放送で視聴しました。
東大での講義を見ていないので比較は出来ませんが、TVで見た通りの見事なファシリテーションで、議論の方も楽しめました。内容的にも、短時間でサンデル教授の説く正義論に触れるものだったと思います。

冒頭にサンデル教授は、正義に関する三つの哲学的な考え方を紹介します。

(1) 幸福の最大化:ジェレミ・ベンサム(功利主義)の考え方
(2) 人間の尊厳・自律、個人の選択の自由を尊重する:イマヌエル・カントの考え方
(3) 美徳の寛容、善き生き方を培う:アリストテレスの考え方

続いて二つの議論が行われます。最初は、「市場の適切な役割、限界」についてです。

・人気が高く、チケットの入手が難しいコンサートがある。チケットを転売するダフ屋の行為は正当化されるか?

・北京では医者が不足しており、医者にかかる整理券を求め長蛇の列が出来るという。ホームレスを雇って並ばせ、高値で整理券を転売する行為は正当化されるか?

・年5000ドルを払って契約した人だけを診察するコンシェルジュ・ドクターの行為は正当化されるか?

といった問いが示されます。選択の自由を増やしているので良いことではないかとか、貧しい人は高い金額を払えないので公平性の観点から問題があるのではないかといった意見が出ました。これは、どこまで格差を認めるかという問題にも繋がりますね。

また、高額な寄付をする者に(学力が不足していても)入学を認める行為は正しいか?といった問いもありました。学校は寄付により設備や教員の拡充が出来るので、学校や学生にとってプラスではないかというもの。受け入れ枠も増やせるので、寄付した者を入学させることによって入学の機会を奪われる学生も出ないというわけです。

これに対しては、親の豊かさは子どもにコントロールできないから公平性に欠けるという意見もありました。しかしながら、学力による入学選抜ならば公平なのか。学力も育った環境に依存するなら同じことではないかという疑問が投げかけられます。

二つ目の議論は「バイオテクノロジー:科学技術と倫理」についてです。

・事前に超音波で性別を知り、男女の産み分けをする行為は正当化できるか。

産み分けも選択の自由の一つではないかという賛成派に対して、望まない者を排除する、殺すことに繋がるという意見が。それなら、

・胚の状態(胎児になる前)での選別ならどうなのか。
・精子の段階(胚になる前)での選別ならどうなのか。

と続きます。どの段階で人格を認めるかということになってきますが、たとえ殺すことにはならなかったとしても、人間が性別を決めることは間違っているのでは?選択の自由といっても、それはあくまでも親側の選択であって、生まれてくる子供側の自由ではないという意見も出ます。

しかし、子供は自分で性別を選んでいるわけではありません。子供の自由の問題ではなく、道徳的に親が行使できる権限を越えているということではないかという疑問が投げかけられます。

さらに考えを進め、将来遺伝子工学が進化したとき。知能が高く、容姿に優れ、運動能力の高い子供だけを産めるようコントロールすることが可能になったらどうだろうかと質問されます。

金持ちか貧しいかという公平性の議論に戻りますが、仮に社会がこの行為を奨励し親に対して補助金を出すならばどうか。

次に子供の選択を奪うという自由の議論に戻りますが、能力を伸ばすのが何故いけないことなのか?努力で伸ばすのは良くて、遺伝子工学で伸ばすのは悪いのかという問いに移ります。

それに対して、もし遺伝子操作を拒絶すると子供に不利益を及ぼすことになるから、結果的に親の選択肢は奪われることになるといった意見が出ます。

そして、「善い親」とはどういうものであるか、あらゆる手を尽くすことが善い親なのかという所から今回の講義のまとめに入ります。

サンデル教授曰く、世の中には自由とか公平性の議論だけでは、必ずしも答えが出ない問題が数多くある。その背後に隠れているのは、道徳的な意義という一見掴みどころのない、別の種類の議論である。

これは冒頭に紹介された三つの正義についての考え方の中で、二つ目迄ではまだ不十分で、三つ目の議論まで到達する必要があるということを示しています。

技術的に可能であるということと、「善き行い」は別である。遺伝子工学の進化は子供をモノのように変えてしまうのではないか。
注文した車が望みどおりでなかったからといって、がっかりしたり返品したりするのと同じことになり、子供に対する無条件の愛情が損なわれるのでないか。

つまり何かを支配・コントロールしたいという人間としての自然な欲求を自制する心、抑える心が大切で、それが「善き生」に繋がるというのが教授の持論だと思うのですが、それを押し付けたり、他の考え方を否定するような授業ではありませんでした。

格差問題や税や社会保障の問題など、とかく世の中の議論は自由や公平性についての第二の考え方に終始しています。何が美徳であるのか、良い生活であるのかは人によって意見が異なるので第三のアリストテレスの観点を忘れがちなのです。しかし、これからの時代はこの議論を避けては通れないとサンデル教授は説きます。

それを考えるきっかけを与え、議論が深まることこそが教授の狙いなのでしょう。その意味でも勇気をもって挙手し、自らの意見を述べられた参加者の皆様に敬意を表します。特に英語で答えた方の意見は分かりやすかったように思います。自らの考えをロジカルに伝える訓練を日頃から積まれているのでしょう。日々の研鑽が大切だということ、私も見習いたいと思います。

そして、東大での講義もどのようなものだったのか気になります。NHKでの放送予定は、10/31(日)18:00~(前編)・11/7(日)18:00~(後編)だそうです。お見逃しなく!
【2010/09/10追記】放送予定が変更になっています。番組公式サイトをチェックしてください。

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